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浦和地方裁判所 昭和62年(ワ)486号 判決 1989年7月17日

原告

小林輝彦

被告

藤田直樹

ほか二名

主文

一  被告藤田直樹、同藤田淑子は原告に対し、各自金一二二万九四二〇円及びこれに対する昭和五八年一二月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告藤田直樹、同藤田淑子に対するその余の請求及び被告藤田和秀に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告藤田直樹、同藤田淑子との間に生じた分は、一〇分し、その一を同被告らの、その余を原告の負担とし、原告と被告藤田和秀との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金一三八三万一八七三円及びこれに対する昭和五八年一二月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告藤田直樹(以下「被告直樹」という。)は、昭和五八年一二月一八日午後一〇時五〇分頃、普通乗用自動車(以下、「本件自動車」という。)に原告を乗車させ、埼玉県福岡市滝二丁目六番三号先の市道上を子供の園方面から上ノ原方面に向けて走行中、本件自動車を道路沿いのブロツク塀に激突させた(以下「本件事故」という。)。

2  原告は、本件事故により顔面及び顎下部分数か所に挫創を負い、次のような損害を被つた。

(一) 治療費 一〇六万二二六〇円

昭和五八年一二月一八日から昭和五九年一月七日まで二一日間直心会帯津三敬病院に入院して受傷部の手術を受けた。

(二) 付添看護費 六万七二〇〇円

入院期間二一日で一日三二〇〇円

(三) 入院雑費 二万一〇〇〇円

入院期間二一日で一日一〇〇〇円

(四) 診断書作成料 三〇〇〇円

(五) 弁護士費用 八〇万円

(六) 逸失利益 一〇三六万九九九三円

原告は、前記手術の結果、顔面右眉外側、右眉上部、右頬、顎下などに外貌に著しい醜状を残す手術痕(後遺障害一二級)を残し、労働能力を一四パーセント喪失した。

原告は、本件事故当時一八歳であり、年収四〇七万六八〇〇円、労働能力喪失期間四九年として逸失利益を計算すると一〇三六万九九九三円となる。

(七) 慰謝料 二五一万円

入院・通院期間分が三四万円

後遺障害分が二一七万円

右(一)ないし(七)の合計額は一四八三万三四五三円であるが、(一)の治療費のうち一〇〇万一五八〇円は支払済みであるので、原告の被つた損害の残額は一三八三万一八七三円である。

3  被告直樹は、本件自動車の運行供用者として前記損害につき損害賠償義務がある。

4  被告藤田和秀(以下「被告和秀」という。)は被告直樹(本件事故当時一八歳)の実父、同藤田淑子(以下「被告淑子」という。)は被告直樹の実母でともに親権者であり、被告直樹が友人を同乗させて車両の運転をし交通事故を発生することのないよう、平素から被告直樹の言動を充分に監視・監督すべき義務があつた。

しかるに、被告和秀、同淑子が右義務を怠つたため、被告直樹は、原告を同乗させて本件自動車を運転し、過失により本件事故を起したのであるから、被告和秀、同淑子は、本件事故につき民法七〇九条の責任がある(被告淑子については、後記運行供用者の責任を主位的に、不法行為の責任を予備的に主張する。)。

5  被告淑子は、本件自動車を割賦で購入し使用中であつたものであり、被告直樹に本件自動車の運転使用を許諾したものであるから、本件事故につき自動車損害賠償保障法三条による運行供用者の責任がある。

6  よつて、原告は被告らに対し、一三八三万一八七三円及びこれに対する昭和五八年一二月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、治療費一〇〇万一五八〇円を支払済みであることは認めるが、その余は不知。

3  同3のうち、被告直樹が本件自動車の運行供用者であつたことは認めるが、その余は争う。

4  同4のうち、被告和秀、同淑子が被告直樹(本件事故当時一八歳)の実父母であり、親権者であつたことは認めるが、その余は争う。

被告直樹は、本件事故当時一八歳であつて、完全に責任能力を有するものであるから、被告和秀、同淑子が被告直樹の親権者であるからといつて、そのことのみにより原告主張のような義務を負ういわれはない。

5  同5は否認する。

本件自動車の登録名義は被告淑子になつているが、これは被告直樹が未成年であつたため、本件自動車購入のためのローンを組む便宜上そうしたものに過ぎず、本件自動車の購入代金はすべて被告直樹が支払つた。したがつて、本件自動車の所有者は被告直樹であり、被告淑子は単なる形式上の登録名義人に過ぎない。

三  抗弁

原告と被告直樹は、本件事故の二年位前から遊び仲間であり、本件事故当日、原告、被告直樹ら有志がライブ・コンサートを開催し、コンサート終了後、当日使用した荷物を片付けるために、被告直樹が本件自動車を会場前に駐車していたところ、原告が本件自動車に乗り込み、助手席に座つて当日の演奏を録音したカセット・テープを聰いていた。被告直樹が後片づけを終わつて本件自動車に乗り込むと、原告が「この車は加速がいいか。」「自分も免許をとつてこれから車を買う予定だ。」と話しかけてきたので、被告直樹が「それではちよつと一回りしてみよう。」と言うと原告はこれに賛同した。そこで、被告直樹は、原告を乗せて本件自動車を発進させたものであるが、その間、原告は「なかなか速いね。」「コーナリングもいいね。」などと被告に話しかけ、被告直樹と一緒にドライブを楽しんでいた。このような状況の中で本件事故が生じたものであるから、原告は好意同乗者であり、損害賠償の額は少なくとも五割を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否

原告が被告直樹に対し「この車は加速がいいか」「自分も免許をとつてから車を買うつもりだ」と話かけたこと、被告直樹が原告に「それではちよつと一回してみよう」と話しかけたところ原告がこれに賛同したこと、原告が被告直樹の運転中「なかなか速いね」「「コーナリングもいいね。」などと話しかけ、ドライブを楽しんでいたことはいずれも否認する。

被告直樹は、原告を助手席に乗せたまま突然、「一回りして来よう」と言うやいなや、車を発進させたものであり、原告としては、降車するいとまもなく、また被告直樹に同乗を頼んだこともない。

したがつて、原告は、本件自動車の運行につきなんらの利益も有していなかつた。

第三証拠関係

本件記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一の事実(本件事故の事実)は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の被つた損害額について検討する。

1  入院治療費

甲第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第一五号証(書証の成立に関する判断は別紙のとおりである。)及び原告小林輝彦本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により顔面挫創を負い、真心会帯津三敬病院に二一日間入院、三日間通院して治療を受け、その治療費(診断書、明細書の作成料は除く。)は合計一〇三万九八〇〇円であつたことが認められる。

2  付添看護費

右入院期間中の付添看護費は六万七二〇〇円が相当と認められる。

3  入院雑費

右入院期間中の入院雑費は二万一〇〇〇円が相当と認められる。

4  診断書作成料

甲第四号証の二によれば、三〇〇〇円と認められる。

5  逸失利益

甲第三号証、第五号証の一ないし三及び原告小林輝彦本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により顔面挫創を負い右眉、右頬、顎下などに傷痕(手術痕)が残つたことが認められるが、それは、著しい醜状を呈するものとは認められず、原告がこれにより労働能力を喪失したものと認めることはできない。

6  慰謝料

原告が本件事故により顔面挫創を負い、その治療のため直心会帯津三敬病院に二一日間入院し、三日間通院したこと及び原告の右眉、右頬、顎下などに傷痕(手術痕)が残つたことは前記認定のとおりであり、これらに対する慰謝料は一〇〇万円が相当である。

以上によれば、原告が本件事故により被つた損害(弁護士費用を除く。)の合計額は二一三万一〇〇〇円であるが、治療費のうち一〇〇万一五八〇円が支払済みであることは原告の自認するところであるから、残額は一一二万九四二〇円である。

そして、原告が本件訴訟を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、これに要する費用(弁護士費用)は本件不法行為時において(中間利息控除)一〇万円が相当であると認める。

三  被告らは、原告はいわゆる好意同乗者であるから損害を減額すべきであると主張するが、甲第一九号証、原告小林輝彦、被告藤田直樹各本人尋問の結果によれば、原告は、本件自動車に興味を持ち、これに同乗したものと認められ、原告の被つた損害を減額すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

四  被告和秀、同淑子が被告直樹(本件事故当時一八歳)の実父母であり親権者であつたことは当事者間に争いがない。

1  原告は、被告和秀は親権者として被告直樹が友人を同乗させて自動車を運転し交通事故を起こすことのないよう監視、監督すべき義務があつたと主張するが、甲第一二、第一六、第一八号証及び被告藤田直樹本人尋問の結果によれば、被告直樹は本件事故当時一八歳に達し、自動車運転免許証も取得し、十分に責任能力を有していた者であることが認められる。したがつて、被告和秀が被告直樹の親権者として同被告を監視、監督すべき義務があつたとしても、これと本件事故との相当因果関係は必ずしも明らかではなく、被告和秀の過失と本件事故との相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。

2  原告は、被告淑子が本件自動車の運行供用者に当たると主張するので、この点について検討する。

甲第一六、第一七号証、被告藤田直樹本人尋問の結果によれば、本件自動車は被告直樹が本件事故の約四か月前に約一四〇万円で購入したものであるが、被告淑子がその使用者として登録されており、自動車損害賠償責任保険の契約者も被告淑子となつていること、本件自動車の購入代金のうち三〇万円は被告直樹のバイクの売却代金をもつて充て、その余はローンであつたこと、しかしながら、右バイクはローンで購入したものであり、バイクのローンの本件自動車のローンも被告淑子が申込人となり(借入先に対する関係では被告淑子が債務者としての責任を負つている。)、被告淑子名義の銀行預金口座から返済していたこと(本件事故当時は返済が完了していなかつた。)、被告直樹はガソリンスタンドでアルバイトをして得た金を被告淑子に渡していたこと、本件事故当時、被告直樹は高校三年生であり、父母である被告和秀、同淑子と同居し、養育されていたことが認められる。

右事実及び被告淑子が被告直樹の親権者であつたことなどにかんがみると、被告淑子は、本件自動車の運行を支配すべき立場にあつたものと認められるので、本件事故につき損害賠償の責任があるというべきである。

五  以上によれば、原告の本件請求は、被告直樹、同淑子に対し、一二二万九四二〇円及びこれに対する本件事故時の昭和五八年一二月一八日から支払済みに至るまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、右被告らに対するその余の請求及び被告和秀に対する請求はいずれも理由がない。

よつて、原告の本件請求を右理由のある限度で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋正)

書証の成立に関する判断

一 成立に争いのないもの

甲第五号証の一ないし三、第一二号証、第一五ないし第一八号証

二 弁論の全趣旨により成立の認められるもの

甲第三号証、第四号証の一、二、第一九号証

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